「発掘捏造」毎日新聞旧石器遺跡取材班(新潮文庫)

「神の手」と呼ばれた男が自分で埋めた石器を発掘していたというスキャンダルを追った新聞記者たちのドキュメンタリー。
「あさっては日本列島がこの話題で大騒ぎになるよ。わくわくするなあ」。
スクープ報道をものにして記者が発した、なんという下品な発言だろうか。しかし、ジャーナリズムのスタンスとしては圧倒的に正しい。自分のネタで一騒ぎ起こしてやろう、こんなん読みたいんだろ、大衆の心理の奥底にある欲望を暴き出して商売する興行師、山師的発想。柳下毅一郎氏によってエクスプロイテーションこそが映画の原点であることが示されたが、ジャーナリズムの原点もまた見世物、興行ではないのか、制度に隠蔽された本音を暴き立てていくことが本筋なのではないかと思わされた。商売になるなら権威や権力などモノともしない姿勢、売れてなんぼのアウトローじゃなくっちゃ。ともかく新聞記者たちのすばらしい業績を素直にたたえたい。でもこんな姿勢を政治家やサラ金や作家や宗教に向けて欲しいところ。今後に期待。
とか言いながらも「神の手」氏に感情移入。悪気がなければ何をやってもいいという訳じゃないけど、この人をさらし者にするのは忍びないというか。嘘にはまり込んでいく姿にはハッキリ言ってすごく共感してしまう。気の弱い「小物」感が人ごとじゃない。