「きょうも涙の日が落ちる 渥美清のフーテン人生論」渥美清(展望社)

 もののはじまりが一ならば、国のはじまりが大和の国、島のはじまりが淡路島 泥棒のはじまりが石川の五右衛門なら 助平のはじまりが小平の義雄

 はじめばかりでは話にならない 続いた数字が二つゥ、兄さん寄ってらっしゃい吉原のカブ、日光 けっこう 東照宮、仁吉が通る東海道、憎まれ小僧世にはびこる 仁木の弾正(だんじょう) お芝居の上での憎まれ役

 続いた数字が三、三で死んだが三島のおせん おせんばかりがおなごじゃないよ、かの京都は極楽寺坂の門前で 小野の小町が三日三晩 飲まず食わずに野たれ死んだのが三十三、とかく三という数字はあやが悪い

 続いた数字が四つであります、四谷 赤坂 麹町 ちゃらちゃら流れるお茶の水 粋な姐ちゃん立小便 白く咲いたか百合の花、四角四面はとうふ屋の娘 色は白いが水くさい、一度かわれば二度かわる 三度かわれば四度かわる 淀の河瀬の水車 たれを待つやらくるくると

 ごほんごほんと波さんが、磯の浜辺でねえあなた わたしゃあなたの妻じゃもの

 昔 武士の位を禄という、後藤又兵衛が槍一本で六万石、ろくでもない子供ができちゃいけないから 教育資料の一端としてお父さん ピース一個買うお値段で 買っていただきましょうこの英語の本、メンソレータムに DDT NHKに マッカーサー古い英語がズラーッと書いてある、表紙も赤いよ 赤い赤いは何見てわかる 赤いもの見て惑わぬ者は 木ぶつ 金ぶつ 石仏、千里旅する汽車でさえ、赤い旗見てちょいと止まる

 続いた本が、色が黒い表紙 色が黒いか黒いが色か 色で惑わす万朶(ばんだ)の桜、色が黒くてもらい手なけりゃ 山のカラスは後家ばかり、色が黒くて食いつきたいが あたしゃ入れ歯で歯がたたない

 七つ 長野の善光寺

 八つ 谷中の奥寺で 竹の柱にかやの屋根 手鍋下げてもわしゃいとやせぬ、信州信濃の新そばよりも あたしゃ あなたのそばがよい、あなた百まで わしゃ九十九まで ともにシラミのたかるまで