「トニー谷、ざんす」村松友視(マガジンハウス)

異能の芸人、トニー谷の半生を綴る。先輩の顔を立てるどころか挨拶もしない、縦社会である芸界で爪弾きにされる孤独な男。盗み撮り、友人の女を寝取る、ゲイバーで遊ぶ、など常識から外れた奇行。そして愛児の誘拐、人気の凋落、舞台での復活、そして…。
タモリ、たけしに先駆ける早すぎたトリックスターであり、大衆に迎合することなく、いや、できなかった舞台芸人、アメリカへ愛憎半ばする当時の日本人のコンプレックスが絞り出した一滴(ひとしずく)のような、あえて言えば排泄物であったのかもしれない。
永六輔をはじめとして往時のトニー谷を知る人たちへのインタビューがとても面白かった。でも、「ヤスケンの海」でも思ったが、とにかく引用が多い。当時の文献なので貴重だし興味深いが、落ち着いて読めないのだった。まあ、個人的な趣味ですが。